Gaussianビーム再び

id:flappphys:20080917#p1 の続き.
普通のレンズの公式,つまり「光線は(拡散の避けられない波動でなく)直線的に進む」と近似する光線光学(ray optics)における薄肉レンズ*1による物体と像の位置関係は,親しみ深い次式で示される:
\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\frac{b}{f} = \frac{a/f}{a/f - 1}
ときに,レーザー光学の基本をなすGaussianビームの形状は直線ではなく(だからわざわざ名前が付いている),それに対するレンズの作用はいわゆるABCD行列で表現される.しかしこれはビーム半径 w と波面の曲率半径 R とをくっつけた複素量 1/q ≡ 1/R - iλ/(πw) に対する作用であり,直感的でない(labの棚を前にしてレンズを選ぶときに一々そんなことを考えたくない).そこで最初に書いたレンズの公式と似た形に書き直してみた.実験的にはビーム・ウェストの位置とそこでの半径が一番 測定しやすいのでそれを主役にする*2
\frac{b}{f} = \frac{\frac{a}{f}\left(\frac{a}{f}-1\right) + \left(\frac{z_R}{f}\right)^2}{\left(\frac{a}{f}-1\right)^2 + \left(\frac{z_R}{f}\right)^2}
w_0' = \frac{w_0}{\sqrt{\left(\frac{a}{f}-1\right)^2 + \left(\frac{z_R}{f}\right)^2}}\frac{z_R'}{f} = \frac{z_R/f}{\left(\frac{a}{f}-1\right)^2 + \left(\frac{z_R}{f}\right)^2}
なお a, b はそれぞれレンズ左側と右側のビームのウェスト位置からレンズまでの距離, z_R ≡ πw_0^2/λ,z_R' ≡ πw_0'^2/λ はそれぞれのRayleigh長.左から来たビームがレンズの作用を受けて右に飛んでいくのを想定.
この結果から特に,レンズ右側のビーム・ウェストはRayleigh長とレンズ焦点距離で決まるような長さより遠くには配置できないことが分かる.光線光学なら「平行光線からほんのわずかだけ収束側にずれた光線」を作ることで非常に遠くに焦点を配置できたのだが,Gaussianビームとしての扱いでは回折広がりを無視できないためそのような光線は実現できないと解釈できる.
まぁlabでは,それこそこんな計算しなくても光線光学から決めた値の前後でちょっと試行錯誤をすれば大抵は事足りますが.

つか,はてなダイアリーの「TeX記法」(MimeTeX) がなんかおかしい... MIMEタイプがimage/gifでなくtext/plainになってる部分がある.

*1:(一般に光軸とは平行でなく角度を持って進む)光線がレンズ中を進む間にも光軸からの距離は変化するが,その変化が無視できるうちに光線がレンズを出てしまい,結局レンズの作用は光線の角度を変えただけとなる,その程度の薄さのレンズが薄肉レンズ.そうでない一般のレンズが厚肉レンズで,主点がどうとか言って,レンズ内部のどの位置を基準とするか決めないとならず,ややこしくなる.しかし大抵は(光学機器メーカー勤務でもなければ)とりあえず薄肉レンズとして計算するのは十分よい近似である.

*2:しかしどうしてもビーム・ウェスト半径よりRayleigh長を主役にする方が自然になってしまう...