修士輪講

今日は修士輪講の今年度1回目,井上研のAさんは苗字のせいでトップバッターだった(五十音順で日程が決まっている).さすがに月曜にリハーサルを聴いているので目新しさは少なかったが...
Compressed MOTについては Petrich, Anderson, Ensher, and Cornell, Behavior of atoms in a compressed magneto-optical trap, J. Opt. Soc. Am. B 11, 1332-- (1994) を参照のこと... と言って済ませられればよいが,それは単なるメソッドの報告で,読んでもどういう原理ってのは分からない.Aさんの説明では「磁気光学トラップ (MOT) において原子数の最大化と温度の最小化(等)は両立しないので,最初は熱くても気にせずに原子数最大化の条件で運転し,最後の瞬間でキュッと条件を変えてうまいこと温度を下げると,事実上両立が可能となってハッピー」という感じだったが,まぁそんな理解でいいんだよね.MOT内の原子の振る舞いはCohen-Tannoudji辺りの人々が理論解析を色々やってそうだが,結局 実験家はそういうのを当てにしてない感じ.「うまいこと温度を下げる」ってのはひたすらパラメタを振って(可能なら)そのための条件を見つけるのだ.規準となる原子数と温度,密度はCCD画像から算出される.トラップを切り5 msとか待って熱運動のままに拡散させてから写真を撮ると広がり具合から色々分かる仕掛け (TOF imaging).
井上研で扱っている41Kは性質がやや特殊だが,87Rbによる標準的なBEC生成法については鳥井先生のD論(特に第3章)が分かりよいかと.ただし偏光勾配冷却はやらない場合も多いらしい.

2人目は伊藤(伸)研で,剛体球を沈殿させたときに六方細密充填構造でなく面心立方格子が選ばれ易い過程を分子動力学法 (MD) でシミュレーションしたらしいが... アンケート用紙には「何がおもしろいんですか」って書いておいた.そもそもMD自体がつまらんよな.計算物理のダサい一面の象徴とすら思える(←偏見のかたまり).やるにしても産総研辺り*1に就職してから始めれば十分かと.
3人目は,別の部屋で五神研の発表があったが固体固体してたんでやっぱり戻って,渡辺研@物性研の人の発表を聴いた.超短パルスレーザーの増幅方法の話.回折格子分散関係を利用してパルス長を引き伸ばした上で増幅し,再び短パルスに戻すというのが定石らしいが,増幅器によくある固体レーザー媒質 (Ti:Sa) でなく非線形光学で言うパラメトリック増幅を使ってみたらしい.よく知らんがこちらの方が高性能で,パルスをあまり引き伸ばさなくてもよいためにスペクトルに与える悪影響が抑えられるらしい(? この辺の論理はきちんと追ってなかった).パラメトリック増幅のポンプ光には元々の(引き伸ばす前の)パルスを分けて増幅してSHG*2で青くしたやつを使うらしい.「引き伸ばした光の増幅に使うには長さが足りなくない?」って質問したのだが,Fabry-Perrot共振器で波長幅を狭く選んで増幅するのでぐっと長さがのびるのだとか.そこが難しいみたいな口振りだったが.

*1:http://unit.aist.go.jp/rics/index.html など.

*2:Second Harmonic Generation.非線形光学結晶を通して周波数を倍化させること.