固有値問題と直交完全系

量子力学では(何らかの物理量に対応する)自己共役演算子の固有vector(固有状態)が非常に重要で,任意のvector(状態)をそれらの線形結合もしくは積分で表すことによって問題を容易に解けるようにすることが多い.しかし任意のvectorが本当に線形結合で書けるのかどうか,言い替えれば自己共役演算子の固有vector系は完全系をなすのかどうか,はちょっとマニアックな問題だ.大雑把に言えば*1答えはYESであり,それゆえ物理では一々気にしなくてもよい... とは言っても,さすがに行列力学(Heisenberg表示,無限次元の行列を使う)に触れるとやっぱり心配になってくる.どうせしっかり頭に入りはしなくても,軽く安心感を得ておきたい.
自己共役演算子Aが代数方程式\sum_{k=0}^n a_k A^k=0を満たす場合については P. A. M. Dirac, The Principles of Quantum Physics, Oxford Univ. Press*2 に証明が載っている.しかし一般の場合については関数解析の本をひもとかなければならない.
私の Kolmogorov and Fomin, Introductory Real Analysis, Dover*3 では 6. Linear Operators の §24*4. Completely Continuous Operators に証明が載っていた.他に 藤田,黒田および伊藤,関数解析,岩波基礎数学選書加藤,位相解析,共立出版 でも「スペクトル」「固有値問題」「レゾルベント」等の単語の近傍に証明が載っていたことを確認した(読んでまではいない).多分,関数解析の教科書ならどれでも載っているのだろう.
そう言えば正規直交完全系complete orthonormal systemをCONSと略したりすることがあるけど,私は "cons" と言えば別のものを想像してしまうのでそうはしたくない.自分で書くときには「正直完系」とか微妙な略を使う.
そう言えば^2,岩波講座現代物理学の基礎(湯川秀樹監修のやつ) 量子力学I, II, III*5のうち,特にIIIは↑のようなこちゃこちゃしたマニアックな話がいっぱいで,そのスジの人にはたまらないことだろう.「Hermitianな演算子と自己共役な演算子の違い」とか,「観測について」とか,ちょうど 清水,量子論の基礎,サイエンス社 が思わせぶりな註を入れているような話題が盛り沢山.私はあまり興味ないけど,誰か読んだらサマリーを教えてくれ.

*1:小うるさい留保条件が必要なことを除けば,という程の意味.

*2:和訳: ディラック,量子力學,岩波

*3:和訳: コルモゴロフおよびフォーミン,函数解析の基礎,岩波

*4:この本は節番号が章をまたがって付けられている.第6章に24の節が含まれるわけではない(笑

*5:こないだ復刊されたと思ったけど,そっちだと2巻までしかないんだな.中身は同じなのだろうか?