翻訳論/文章論
私が普段心がけているポイント.技術的文書に特化しており万人にお薦めはできない.翻訳活動を通じて得た経験に基づく.
- 語順を保って翻訳する
- 関係代名詞や後置修飾句の「修飾関係」なんて適当でいい.例えば「それはdetが1であるような行列から成る群である」より「それは群で,その元である行列のdetは1である」を選ぶ.
- 修飾関係が一意に定まるようにする
- 読点*1を入れたり,修飾句の順を入れ換えたりする.場合によっては文の構造そのものも変える.例えば「Hに含まれるaの逆元」は「aのHに含まれる逆元」なのか「Hに含まれるaの,逆元」(もしくは「aの逆元はHに含まれる」)なのか分からない.
- 重要な主張を構成する語句を集中させる
- 赤線が引きやすいように,という意図.例えば,反例を含む文では反例は後半に括り出す.「ここで1は自然数でなく恒等写像である」は「ここで1は恒等写像であり自然数でない」とした方が,積極的な主張が文の主題と近接する.ただし「自然数でない」の方が重要な主張とみなされる場合もあるので,著者のスタンスが問われる.
- 条件の表現は選択肢が明確に定まるようにする
- 「(M)または(K)と(A)または(B-W)または(C)と(A)または(W)」はよくない*2.Cコンパイラですら「andとorには優先度の差が確かにあるけど,明確さのために括弧を入れましょう」と言うことがある.ましてや優先度の定まらない自然言語においておや.
- 単語の区切りを明確にする
- 「昨日書店に行った」はよくない.「昨日書店」って「紀伊之國屋書店」の仲間ですか? どこにある本屋ですか? 「昨日,書店に行った」とすべき.
- 字数の短い単語を使う
- 全体として字数が少なければ急いで目を通す負担がわずかずつ減る.単語の反復は文学的文章ではしばしば嫌われるが,普段は誰も気にしやしない.例えば「用いる」より「使う」の方が1文字少ないのでそちらを「使う」.あと「嫌われるものだが」より「嫌われるが」等はかなり効く.
なぜ突然こんなものを書いたかと言うと,壁に貼ってあるメモをそろそろ剥がそうと思ったから.