Lebesgue積分ことはじめ

Fourier級数がなかなか手強いので積ん読になっていた 志賀浩二ルベーグ積分30講,朝倉書店 を引っ張り出して読む*1.効果てきめん,ほどよい眠気が... って違うっつの.
まず実数の集合の「長さ」すなわち測度は平行移動について不変とする.例えば閉区間[1...2]は平行移動により[101...102]に移るので,それらの測度は等しい(まぁ閉区間[a...b]の測度は b-a と定義するので自明だけど).
次に測度の完全加法性という性質を要請する.すなわち,有限個のみならず可算個の区間の直和の測度が,各区間の測度の和になるという性質である.例えば可算個の閉区間[1...1+1/2],[2...2+1/4],...,[n...n+1/2^n],... の直和を考えたとき,n番目の区間の測度は1/2^nだから,それらの直和の測度は無限級数 1/2+1/4+...+1/2^n+... として得られることになる.つまり 1 である.
「長さ」の抽象化の結果このような測度という概念を得るが,これは確かに幅広い集合に関して矛盾なしに考えられる便利な概念だ.しかし普通の「長さ」が考えられない集合について測度を算出すると,その結果は一般人の想像を遥かに超えたものになる.
例えば,「有理数の集合」の測度.集合論では「有理数自然数とは1:1対応が付く」すなわち「有理数可算集合である」こと,しかし「実数と自然数とは1:1対応が付かない」すなわち「実数は非可算集合である」ことを習う.有理数は実数に比べてずっと「少ない」のだ.解析学では「有理数はどれ程狭い区間の中にも分布している」すなわち「有理数は数直線において稠密である」ことを習ったので,例えば閉区間I\equiv[0...1]に含まれる有理数全ての集合Qについて「長さ」ならぬ測度を求めようとするとき,Qは測度 1 の集合であるIとほとんど区別がつかないかのように思え,同じく 1 でいいじゃないか,とも思える.しかし精密に考えると実はQの測度は 0 となる.これは有理数が「少ない」ことによる帰結だ.
まだある.Iの部分集合であるCantorの3進集合というものは実数に比べて全然「少ない」なんてことはなく,非可算集合である(実数全体と1:1対応が付く).それであってもその測度は 0 になる.
Cantorの3進集合は実は[0...1]に含まれる実数のうち3進数で小数表示したときどの桁にも1の現れないもの全体の集合で,極限操作によって得られる集合だ.してみると,極限操作というものが諸悪(?)の根元であることが想像付く.極限操作を行っても矛盾のないように面積とか積分とかを考えたいとき,LebesgueやらCaratheodoryやらの仕事が効いてくるようだ.

*1:Fourier級数論は深いところではLebesgue積分論と密接に関連してるらしいのでそうしたのだ.あながち意味のない逃避でもないよ.