Poincare予想を軸とした数学の大河ドラマ

冬休みに親が録画してくれていたNHKのPoincare予想とペレリマン*1の特集数学者はキノコ狩りの夢を見るを観たのに影響され,こないだ書店で買った スピーロ,ポアンカレ予想 ---世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者,早川 を読了.Poincare予想と解決そのものよりも,そこに至る数学者達の伝記っぽい話を主に楽しんで読んだ.どうせ数学は分からないので(笑
大学を出たばかりの若きPoincareは,当時のフランス理系エリートの常として鉱山技師として今で言う生産管理みたいな勤務に就いたんだが,ほどなくして所轄内で悲惨な爆発事故が起き,それを徹底的かつ犠牲者への心を込めて事後調査した報告書が残っているのだそうな.大学入学時,製図の成績が駄目駄目で,数学の才能でおまけして入れてもらったとかいう逸話は聞いたことがあったが,それから想像される人物像と上の逸話はかなりかけ離れていると思う.
他にMittag-Lefflerが業界政治に没頭するオッサンとして描かれているのも笑える.スウェーデン人であるMittag-Lefflerがスウェーデン王の誕生日記念懸賞論文企画を立ち上げたところ,Poincareが三体問題について重要な結果を示した論文を送ってきて,それが受賞した.ところがそれを自らの主催する論文誌Acta Mathematicaの前刷りに載せた後に誤りが発覚し,前刷りをHermite, WeierstrassやSophus Lie等から回収して隠蔽するために様々なこすい手を打った.この後Poincareはスウェーデン王からの賞金の1.5倍の金額を修正印刷料金として支払ったらしい.誤りを指摘したのはチェックに当たっていたMittag-Lefflerの若き助手だったが,そこを修正したおかげでPoincareはカオス理論のパイオニアとなったんだから,まぁコラボレーションてのは大切ってことですか.
... てのはほんの一部だが,こういうのが好きな人にはお勧め.でも同じ著者の スピーロ,ケプラー予想 ---四百年の難問が解けるまで,新潮社 は,前に書店で眺めたけどさほどでもなかったような.まぁ私は元々伝記が好きなタイプなんだよな.マクレイ,フォン・ノイマンの生涯,朝日選書 (ASIN:4560026130) とかエーヴ・キュリー,キュリー婦人伝,白水社*2,また言うまでもなく ファインマン,ご冗談でしょうファインマンさん,岩波現代文庫 とか,他にも色々高校の頃に読んでた.
ちなみに次に読むのは 高橋,自殺のサインを読みとる,講談社文庫 である.昨年の今頃を思い出しつつ.

*1:外来語や固有名詞のカタカナ表記/(ラテン・)アルファベット表記の問題については常に頭を悩ませている.単なる衒学趣味ではないつもりだ.とりあえずキリール・アルファベットは諦めている.

*2:旦那さんP. Curie(Curie温度とかの人)の事故死の顛末の描写が現代では考えられないくらいストレートで,やや後味が悪い.著者は夫婦の次女なんだけど,よく書いたもんだ(昨年10月にお亡くなりになったらしい).